国民投票法と天皇制

 憲法改正に関する国民投票法案をめぐる議論は、日本が民主主義国家として未成熟であることを露呈させてうんざりするものだった。

憲法改正を実現したいという個人的な目標を達成させるために、法案の内容を少しでも憲法改正がしやすいものにしようとした現行法案支持派。

憲法改正に関する国民投票法案を成立させないことによって、憲法改正を阻止しようとした護憲派

 法案の内容をどのようなものにすれば一番よく民意が反映されるのか、日本の民主主義にとって望ましいのは、どのような法案なのかを考えようとした人たちは少数派にすぎなかった。

憲法学者の長谷部恭男は、その著作の中で、憲法改正案が発議されてから2年間位時間をかけて、国民が改正の是非について熟慮するべきだと主張していたが、このような民主主義的な価値観に基づいた意見はほとんど反映されなかった。

 現行の法案で評価できるのは、改正案を一括して賛否を問うのではなく、関連した条項ごとに個別に賛否を問うものになっていることである。

この方式は民主主義的な観点から肯定的に評価できる。

 だが、最低投票率を制定せず、憲法改正案に賛成する人が有権者の20%位しかいなくても改正が成立する点など、内容はもう1度充分に見直しをしたほうがよいだろう。

私自身は、有権者の何%が改正に賛成すれば正当性があるのか、あらためて議論をして合意案を形成する必要があると思っている。

ただ、これに関しては正しい答えというものはないから、結局多数派の意見が通ってしまうのは仕方がないといえる。

憲法を改正したいと考えている人たちが、法案の内容を憲法が改正しやすいものにしようとし、改正に反対の人が法案の内容を憲法が改正しにくいものにしようとするのも仕方がないことだろう。

 

 最低投票率に関した問題で私が一番面白いと感じたのは、次の点である。

私は天皇制廃止論者だが(厳密には、皇室を宗教団体として、政教分離の原則に基づき天皇と政治との形式的なかかわりを廃止するべきという考えだが)、天皇制の廃止は有権者過半数の賛成をもってすべきだと考えている。

 そのような考えの者からすると、天皇制を守るべき日本の伝統と考えている人たちの多くが、有権者の20%位が廃止案に賛成しただけでも天皇制が廃止される可能性のある国民投票法案に賛成したのは面白い現象だった。

天皇制を維持すべきと考えている国民は7割か8割以上だから、天皇制の廃止を唱えた憲法改正案が発議されることはないと考えていたのかもしれない。

あるいは、憲法9条を一刻も早く改正したいと考えていたので、天皇制のことまで頭が回らなかったのかもしれない。

あるいは、現行の国民投票法憲法9条を改正し、天皇制の廃止が議題にのぼったときは、あらためて国民投票法憲法が改正しにくいものにかえればよいと考えていたのかもしれない。

(実際には、天皇制の廃止のことまで考えていなかった人が大部分だろうが……。)