日本の軍事政策 ― 2つの理想主義と現実主義

 戦後日本の軍事政策に関する考え方には、2つの種類の「理想主義と現実主義」の対立がある。

1つは、憲法9条を擁護しようとする「反戦平和主義」の理想主義と、これを改正して「普通の国」になろうとする現実主義の対立。

もう1つは、戦後の日本がアメリカの従属状態にあるという現実を受け入れて、この状態を継続しようとする現実主義と、従属状態を脱しようとする理想主義の対立。

 

 そして、2つの理想主義と現実主義を組み合わせると、4つのタイプの考え方になる。

1つ目は、憲法9条を改正し、かつ対米従属状態を脱しようとするもの。

従来、国粋派、反米右翼といわれている人たちがこのような主張をしていた。

最近では、憲法9条のみを改正し、その他の民主主義的な憲法の条項は維持しようとするリベラル改憲派といえる人たちの中にもこうした主張をする人がみられる。

日米同盟を見直し日本の軍事力を強化しようとする「自主武装路線」と、日米同盟は維持したまま日本の軍事力を強化しようとする「対等なパートナーシップ路線」がある。

 

 2つ目は、対米従属状態を維持したまま9条を改正しようとするもので、「自衛隊の米軍一体化路線」といえる立場である。

21世紀に入り、小泉-安倍政権下でこのような方向性が模索されたといえる。

改憲派といわれる人の多くはこの立場であろうし、現実に9条が改正される時は、この方針のもとでなされる可能性が高いだろう。

 

 3つ目は、対米従属状態を維持し、かつ9条も維持しようとするもの。

アメリカの軍事的要求には「解釈改憲」という形で応じる立場で、戦後日本の政府が一貫してとり続けてきた立場でもある。

日米安保憲法9条をセットにする」という考え方もこれに属するだろう。

 

 4つ目は、9条を維持したまま対米従属状態を脱しようとするもので、「非武装中立路線」がこの立場の代表的な考え方だろう。

なお、軍隊と交戦権を放棄した状態で、どのようにしてアメリカの従属状態から脱するつもりなのかは不明である。

アメリカとの話し合いによって従属状態を脱せると考えているのかもしれないが、アメリカがこの要求を受け入れなければ実現はできない。

超理想主義といえる観念的な考え方ではある。

 

 では、私自身の考え方はどのタイプなのだと疑問に思う人もいるかもしれないが、この問題は単純にどの立場がよいといえるものではない。

理想としては「非武装中立路線」が一番望ましいが、それが実現困難であることは前述した通りである。

現実的に考えれば「解釈改憲」という形でアメリカとの関係を上手くやっていくのが得策だともいえるが、既にアメリカの軍事的要求が「解釈改憲」では対応できないところまできているともいえる。

かといって「自衛隊の米軍一体化路線」は、日本を完全にアメリカの属国状態に陥らせる危険性がある。

それでは「対等なパートナーシップ路線」はどうか。

在日米軍は、日本が再び軍国主義化してアメリカに牙をむけないよう蓋として存在しているという説がある。

この説が正しいのならば、「対等なパートナーシップ路線」もまたアメリカがそれを拒否すれば実現は困難である。

また、「自主武装路線」をとった場合、下手をすればアメリカとの戦争に発展し再占領されるという最悪の結果をもたらしかねない。

そうならなくても、アメリカとの経済関係が上手くいかなくなり、国民生活に悪影響を及ぼす可能性は高いだろう。

 

 この問題は、戦後の日本がアメリカの占領状態からはじまったことによって抱え続けることになった難問である。

外国の従属下で「平和と繁栄」を謳歌するのか、それとも「平和と繁栄」よりも従属状態からの脱却をめざすのか。

また憲法9条の平和主義が、アメリカの軍事力の傘の下で保たれているという矛盾をどうするのか。

 これらの問題は、理想主義か現実主義かといった二者択一で解決できるものではなく、理想と現実のバランスを保ちながら、国民にとって一番望ましい政策を選択しなければならないという高度に政治的な問題であろう。