労働環境・雇用環境改革の一試案

 十数年前から、格差問題、非正規雇用者やワーキングプア層の増加、派遣労働者の問題など労働環境、雇用環境をめぐって様々なテーマが議論されている。

多くの国民、労働者にとって一番望ましいのは、1980年代までのように、正社員希望者はよほどの事情がない限り正規雇用され、かつ定年まで右肩上がりに上昇する賃金体系が維持されることだろう。

 だが、80年代までの雇用環境は、経済成長期だからこそ維持できたのであり、経済成長期がすぎた今、かつてのような状況に戻ることはできないという主張もある。

その主張が正しいのだとすれば、現在のように労働者が正規雇用者と非正規雇用者に分断された状態で、弥縫策でしかない対策をとるか、それとも労働環境、雇用環境を社会保障制度も含めて大きく改革するかしかないだろう。

企業側、経営者側の利益優先ではなく、働く側の権利や待遇を改善させるという観点から、私の考える労働環境、雇用環境改革案を述べてみる。

 

 まず、正社員希望者は正規雇用し、働く側が非正規雇用を望んだ場合のみ、そうするというのが原則ではあるが、企業側、経営者側の事情で全員を正規雇用できないのであれば、非正規雇用者にも正規雇用者と同等の権利を付与する。

それによって企業側が非正規採用することのメリットを減らすとともに、非正規雇用者の待遇を向上させる。

同一労働同一賃金制の導入(この場合、正社員の賃金を非正規雇用者に合わせるのではなく、非正規雇用者の賃金を正社員に合わせるのでなければ意味はないが)。最低賃金の保障。現在正社員のみが加入対象となっている社会保険雇用保険非正規雇用者も加入できるようにする。ボーナスや退職金を非正規雇用者も支給対象とする。法律の大幅な改正が必要になるだろうが、派遣労働者にも契約打ち切り時に退職金に相当するものを支給する制度を導入する(そうすれば、経営者側が派遣労働者を便利に使い捨てできる道具として扱っている現状を少しは改善できるだろうし、また派遣労働者の生活保障にも少しは役立つだろう)。

 

 一方、一度正規雇用したら定年まで右肩上がりに上昇する賃金体系が、経営を圧迫するとして非正規雇用者の増加、リストラ名目での中高年層の解雇の原因となっている。

このような状況を改革(それが改善であるとはいえないかもしれないが)するために、現行の賃金体系を根本から変更する。

現在、月給と賞与という形で支給されている給与を、営業職などで採用されている固定給と歩合給の併用的なものにあらためる。

固定給は、最低保障賃金的なものとして月給として支給する。

そして、それとは別に、企業の経営状態、業績などに応じて大きく増減できる分を変動給として支給する。

ただし、会社の利益の一定割合以上は、変動給として労働者側に還元させることを法的に義務付けなければ、労働者側は固定給のみの安い給与で会社に奉仕させられることになるだろう。

なお、この変動給分を年棒的な支給方法にするか、年何回かの賞与的な支給方法にするか、それとも月給として支給するかは検討の必要があろう。

また、変動給を能力給的なものにすれば、個人の実績に応じて給与が上昇することになるので、社員の競争意識を活用することもできるだろう(事務職などの実績が眼にみえにくい職種では、上司の好き嫌いによる人事考課が変動給に反映されるなどのマイナスの効果も考えられる。それに、過度の競争がもたらす負の側面もあるだろうが)。

経営者側は、経営状態が悪い時には変動給の圧縮という形でこの状況に対応できるようにする。そのかわり、安易な社員の解雇、非正規採用の増加などは減らすべきだろう。

 

 次に、社会保障制度の改革案についてである。

数年前、親が低所得のため国民健康保険料を支払えず、健康保険未加入状態となっている児童の存在をテレビで報道していた。

また、社員の社会保険料、厚生年金保険料の半分を会社が負担するという制度が、コスト削減のため正規雇用を減らし、非正規雇用を増やすという結果をもたらしている。

これらのことをふまえ、健康保険は、国民健康保険社会保険を統合し、税金による運営に一元化することによって未加入者を防ぐべきではないだろうか。

それに応じて、会社が社会保険料の半分を負担する制度もあらため、会社の社会保険料負担分は、雇用保険料のように正規、非正規にかかわらず被雇用者の人数に応じて一定の額を納める形か、あるいは法人税の一部を社会保険分にわりあてるという形にするのがよいのではないだろうか。

なお、国民年金、厚生年金に関しては、次項の「年金制度は40数年後を目途に生活保護制度を補充する制度に移行すべき」にて記述してある。

 

 最後になるが、給与を固定給と変動給併用制にするという案は、現在正社員である人の人生設計に大きな変更をもたらすから、反対が多く実現するのは困難ではあろう。

また、実現した場合は、住宅ローンなどのあり方にも影響を及ぼすので、社会に混乱をもたらすおそれもあるので、それへの対応策も検討する必要がある。

一方、経営者側にとっては、便利に使い捨てできる非正規雇用者を確保したまま、正規雇用者の賃金を引き下げるために、ここで述べたような方法を採用する場合もある。

そうなったら、現在正規雇用者と非正規雇用者の間で生じている格差が、経営者などの使用者側と正規、非正規含んだ被雇用者側の格差へと広がり、多くの国民、労働者にとっては一番悪い結果をもたらすだろう。

いずれにせよ、経済成長期は終わったのに、国民の多くが経済成長期時代の意識や価値観から脱け出せず、バブル崩壊後の厳しい労働環境、雇用環境に対する適切な処方箋をみいだせない、というのが現状であるように思える。